「カーボンニュートラル」(carbon neutrality、直訳「炭素中立」)という用語は近年、頻繁に取り上げられています。しかし、この言葉が何を指すのか、具体的にはどのような意味を持つのか、よく分かっていない、という方は珍しくありません。
簡単に言えば、カーボンニュートラルとは、人々や企業が排出する二酸化炭素などの炭素系の温室効果ガスの「排出量」と、その排出量を相殺するための「吸収量」を均衡させる取り組みのこと。
この取り組みが重要な理由は、気候変動に対する一つの有効な解決策とされているからです。
この記事では、カーボンニュートラルがどのようなものであり、それを達成するためにはどういった方法があるのか、また、エシカルかつサステナブルな生活にどのように貢献するのかについて、わかりやすくご紹介いたします。
Contents
カーボンニュートラルとは?
カーボンニュートラル(carbon neutrality、直訳「炭素中立」)は、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量と、それを相殺するための活動が均衡する状態(「排出量」と「吸収量」が同じになる状態)を指します。
具体的には、炭素排出を削減したり、森林を植えるなどしてオフセット(相殺)したりという方法が取られます。
このようなカーボンニュートラルの取り組みは、気候変動とその影響――海面上昇、極端な気象現象(極端気象)、生態系への影響など――への重要な対策方法となっています。
また、サステナビリティやエシカルな観点からも、カーボンニュートラルは持続可能な未来に向けたキーとなる要素であり、個々の行動から企業活動、国際協力に至るまで幅広いレベルでの取り組みが求められています。
【ネットゼロとの違い】
カーボンニュートラルと同様の用語に「ネットゼロ(Net Zero)」があります。ネットゼロは日本語では「正味ゼロ」という訳になり、温室効果ガスの排出量を「正味ゼロ」にすることを意味します。
※正味:付随する余計なものを取り除いた量
そのため、「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」はほぼ同じ意味で使われますが、厳密には異なる点があります。
■主な違い■
①焦点:カーボンニュートラルはしばしば短期的な行動に焦点を当てがちですが、ネットゼロは長期的な戦略として考えられます。
②対象:カーボンニュートラルは主に二酸化炭素に焦点を当てている場合が多いです。一方で、ネットゼロは二酸化炭素だけでなく、メタンや一酸化窒素などその他の温室効果ガスも考慮に入れる場合があります。
③方法:カーボンニュートラルは、(後述する)カーボンクレジットを購入することで目標を達成する場合が多いですが、ネットゼロは技術的なイノベーションや実質的な削減が必要とされます。
④認証と監視:ネットゼロは、より厳格な認証や監視が求められる場合があります。
⑤戦略:ネットゼロは持続可能な開発の一環として、しばしばより包括的なエコシステムやサプライチェーン全体の改善に取り組む場合があります。
いずれの概念も、温室効果ガス排出の削減と気候変動への対策において重要ですが、そのアプローチや対象に違いがあります。
カーボンニュートラルの歴史と背景
カーボンニュートラルの考え自体は、科学者や環境活動家が気候変動の影響を減らすための方法として、1980年代から議論が始まりました。
しかし、真のターニングポイントとなったのは1997年の京都議定書です。この議定書により、温室効果ガスの排出削減が法的に求められ、国際的な取り組みが加速しました。
そして、2015年に締結されたパリ協定では、より多くの国々がカーボンニュートラルに向けた具体的な目標を設定しました。
更に、企業レベルでの取り組みも増えています。特にテクノロジー企業やエネルギー企業は、独自のカーボンニュートラル計画を発表しています。
たとえばAmazon、Google、Appleといった米テック企業が、2050年までにカーボンニュートラルを達成する(Appleは事業全体を2030年までに達成)と宣言するなど、ビジネス界でもこのトピックは重要視されています。
このように、カーボンニュートラルは単なる環境問題から、社会全体で取り組むべきグローバルな課題へと位置づけが変わってきました。さらに、サステナビリティ、エシカル、オーガニックといった価値観が高まる中で、カーボンニュートラルの概念は今後も進化し続けるでしょう。
カーボンニュートラルの主な方法
カーボンニュートラルを達成するための主なアプローチはいくつかありますが、中でも注目されているのは「オフセット」、「エネルギー効率の向上」、そして「再生可能エネルギーの活用」です。
【オフセット】
オフセットは、自分や企業が排出する二酸化炭素の量を減らすことが難しい場合に、それを相殺するための方法です。
具体的には、自分たちが排出するガスと同量を吸収する、または排出を削減するプロジェクトに投資します。
森林保全プロジェクトや再生可能エネルギープロジェクトへの寄付は一例です。このようにして、排出量と相殺量が均衡する状態を目指します。
【エネルギー効率の向上】
「エネルギー効率を向上させる」とは、同じ作業を行う場合でも、より少ないエネルギーで済むようにすることです。
建築物の設計から見直しを始め、LED照明の導入や、高効率な冷暖房システムの使用、エネルギー消費量が少ない家電製品を選ぶなどがあります。
【再生可能エネルギーの活用】
再生可能エネルギーとは、太陽、風、水力など自然界のエネルギーを利用した発電方法です。化石燃料に頼らないため、二酸化炭素排出が少なく、持続可能です。
太陽光発電や風力発電は最も一般的な形態で、小規模な家庭用から大規模な商業施設まで、多様な場面での導入が進んでいます。
エシカル、サステナビリティの観点
カーボンニュートラルの取り組みがエシカル(倫理的)であり、持続可能性にも寄与する理由はいくつか存在します。以下に主な例を挙げていきます。
【地球環境との調和】
第一に、カーボンニュートラルの取り組みは、地球環境との調和を目指します。
特に、化石燃料の大量消費が引き起こす気候変動、海面上昇、極端な気象などの問題を緩和するために重要です。
【地域社会への貢献】
再生可能エネルギーや環境保全活動を通じて、地域社会に直接貢献することができます。このようなプロジェクトは、地元での雇用創出や教育の向上、自然保護を実現できる場合があります。
【経済的持続可能性】
長期的に見れば、再生可能エネルギーは化石燃料よりもコスト効率が良い場合があり、持続可能な経済成長を促進する要素ともなりえます。
【社会的・倫理的責任】
カーボンニュートラルは社会全体に良い影響を与える可能性が高いです。
地球温暖化の影響は、貧困を増し、未来の世代にとって特に深刻であるため、CO2排出を削減することは、社会的かつ倫理的な責任であります。
■補足:地球温暖化と貧困の関係
地球温暖化と貧困は、複雑な相互作用を持っています。以下はその主な点です。
①環境的影響と社会経済的影響
気候変動による環境的影響(例:極端な気象、海面上昇、熱波など)は、特に貧困層に影響を及ぼします。多くの貧困層は、環境変動に対する適応能力が低く、その影響を最も直接的に受けやすい状況にあります。
②インフラとサービスへのアクセス
貧困地域ではしばしば、洪水や干ばつに対処するための十分なインフラ(例:堤防、灌漑施設)やサービス(例:保健サービス)が欠如しています。そのため、気候変動の影響を受けやすく、さらに貧困が深刻化することがあります。
③経済的影響
気候変動は、農業や漁業など、自然資源に依存する産業にも影響を及ぼします。これらの産業は貧困層にとって主要な収入源である場合が多く、気候変動によってこれらの産業が影響を受けると、貧困層の生計がさらに困難になることがあります。
④社会的不平等
気候変動は社会的不平等を拡大する可能性もあります。貧困層はしばしば、低品質の住宅や不安定な雇用状況にあるため、気候変動の影響を最も痛感します。その結果、貧富の格差がさらに広がる可能性があります。
⑤移動と避難
極端な気象イベントや持続的な環境変化により、貧困層が自らの居住地を離れる(もしくは離れざるを得なくなる)ケースが増えています。このような「気候難民」が増加すると、新たな貧困層が生まれるリスクも高まります。
以上のように、地球温暖化と貧困は多面的に関連しており、一方が他方を悪化させる悪循環が存在する場合があります。この問題に対処するためには、環境保全と社会経済的な側面を同時に考慮する総合的なアプローチが必要です。
カーボンニュートラルに関するFAQ
カーボンニュートラルに関する概念や取り組みについて、多くの方々から寄せられる疑問を集め、それに対する答えを以下にまとめました。
Q1:カーボンニュートラルとは具体的に何を意味しますか?
A1:カーボンニュートラルとは、人々の活動によって排出される二酸化炭素の量と、それを吸収・削減する取り組みを同等のレベルまで持ってくることを指します。簡単に言うと、放出と吸収・削減のバランスを取ることを目指す概念です。
Q2:個人がカーボンニュートラルを達成するためにはどうしたらよいですか?
A2:個人としては、日常生活でのエネルギー消費を減少させる、再生可能エネルギーの利用を増やす、持続可能な交通手段を選択するなどの行動を意識することが大切です。
また、オフセットを購入して、CO2排出量を相殺することも一つの方法です。
Q3:「オフセットを購入して、CO2排出量を相殺する」とはどういう意味ですか?
A3:簡単に言えば、自分が排出した二酸化炭素(CO2)の量に対応する環境保全活動や再生可能エネルギーのプロジェクトに投資すること。
しばしば「カーボンクレジット」の購入を通じて実現されます。以下は、具体的な手続きとして考えられるものです。
【カーボンクレジットとは】
カーボンクレジットとは、一定量(通常1トン)のCO2排出削減またはCO2吸収が証明されたときに発行される証明書の一種です。これを購入することで、自らが排出したCO2を「補償」することができます。
※日本のカーボンクレジット制度「J-クレジット制度」:温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度
・環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
・J-クレジット制度公式サイト
①自分のCO2排出量を計算
まず、何らかの方法で自分または組織のCO2排出量を計算します。専門のツールやサービスがありますが、エネルギー消費、輸送手段、商品の購入など、日常の様々な活動を通じてどれくらいのCO2が排出されているかを詳しく計算する必要があります。
②カーボンクレジット・オフセットプロジェクトの選定
信頼性のあるプラットフォームや認証機関からカーボンクレジットを購入できるプロジェクトを選びます。プロジェクトは、再生可能エネルギーの導入、森林再生、持続可能な農業プラクティスなど多岐にわたります。
③購入と証明
選んだプロジェクトで必要な量のカーボンクレジットを購入します。購入後には証明書が発行される場合が多いです。この証明書は、自分が排出したCO2に対して何らかの形で責任を取った、という証拠になります。
④継続とレビュー
CO2排出量は時間とともに変わる可能性がありますので、定期的に自分の排出量を計算し、必要な量のカーボンクレジットを購入するようにしてください。
⑤透明性と報告
できれば、自分や組織がどれだけのカーボンクレジットを購入し、どのようなプロジェクトを支援したのかを公に報告すると良いでしょう。これが信頼性と透明性を高め、さらに多くの人々や組織がCO2オフセットに参加するきっかけにもなります。
このようにして、「カーボンクレジット」を利用しながらオフセットを購入することで、自身のCO2排出量を補償することができます。
ただし、この「カーボンクレジット」については批判・信頼性への疑問の声もあります。
たとえばイギリス政府はカーボンクレジットを含めてカーボン・オフセットの主な問題点を指摘し、2023年2月にイギリスの広告基準庁(ASA)は広告上での「カーボンニュートラル」「カーボン・オフセット」などの環境に関する用語使用について新しいガイダンスを発表しています。
【参考サイト】
・環境省「J-クレジット制度及びカーボン・オフセットについて」
・環境省「英国において指摘されているカーボン・オフセットの主な問題点」
・ESG Journalサイト内記事「英規制当局、「カーボン・ニュートラル」「ネット・ゼロ」の広告に関する新ガイダンスを発表」
・The guardianサイト内記事 “Adverts claiming products are carbon neutral by using offsetting face UK ban”
Q3:企業はどのようにしてカーボンニュートラルを推進すればよいですか?
A3::企業は、エネルギー効率の良い設備投資、社員のエコ意識の向上、サプライチェーン全体での環境負荷の最小化など、多岐にわたる取り組みを進めることが求められます。
また、外部の専門家と連携し、持続可能なビジネスモデルを検討することも効果的です。
Q4:カーボンニュートラルの取り組みは高額になるのではないですか?
A4:初期投資が必要な場合もありますが、長期的に見るとエネルギーコストの削減など多くのメリットがあります。実際、多くの企業はカーボンニュートラルの取り組みを経済的な機会として捉えています。
カーボンニュートラルへの道は個々の行動から!
カーボンニュートラルは、単に環境に優しい選択肢ではありません。それは、地球温暖化の進行を食い止め、持続可能な未来を築くための必須のステップです。
カーボンクレジットの購入やエネルギー効率の向上、再生可能エネルギーの採用など、多くの方法が存在しますが、大切なのは「始めること」です。そして、その行動を継続し、改善していくプロセスが重要です。
最後に、カーボンニュートラルは一人ひとりの行動が集まって初めて大きな効果を生むものです。自分自身のCO2排出量を削減するだけでなく、その取り組みを周囲に広め、より多くの人々が参加する環境を作ることが求められています。
エシカルでサステナブルな選択をすることが、ただ自分たちの生活を良くするだけでなく、次世代にも美しい地球を残す礎になることをイメージして、まずは身近な一歩から始めてみましょう!
【参考サイト】
・脱炭素ポータル
・経済産業省資源エネルギー庁
・J-Net21 「カーボンニュートラルにはどのように取り組んだらよいでしょうか。」
・国際連合広報センター「気候変動の影響」
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