「環境移民」(environmental immigration、「気候難民」とも呼ぶ)という言葉をご存じでしょうか? 気候変動が進行する中、環境移民という新たな形の移民が急増しています。
従来の移民とは違い、これらの人々は戦争や経済的な理由ではなく、環境の厳しさから故郷を離れざるを得なくなっています。この現象は、エシカルな問題からも、また持続可能な社会を目指す上でも、無視できない課題となっているのです!
そこで以下では、環境移民が直面する問題について、エシカル・サステナビリティを重視した視点の元でご説明します。
移民というイメージから、どこか遠くの国のことのように捉えている方は少なくありません。ですが、環境移民は地球全体の気候変動が大きく関わるため、現在居住している国・地域に関わらず、地球に暮らす全員が直面する問題として、ぜひご一読いただければ幸いです。
Contents
環境移民とは
環境移民という言葉は、近年ますます一般的になっていますが、「環境」と「移民」が合わさるとは、あらためてどのような事なのでしょうか。
簡単にご説明すれば、「環境移民」とは、気候変動、自然災害、土地の劣化など、環境的要因によって故郷を離れざるを得なくなった人々を指します。
この現象は、過去数世紀にわたり存在していますが、特に今日では気候変動の影響が加速しているため、前例のない緊急性を持っているのです。
※イメージ:パキスタンの洪水時
環境移民を取り巻く現状
環境移民の現状は厳しいものとなっています。国際機関によると、2050年までに約2億人が環境移民として移住する可能性があるとされているのです!
このスケールの人口移動は、社会的、経済的にも多くの問題を引き起こします。例を挙げると、バングラデシュではすでに毎年約50万人が洪水や土壌劣化によって家を失い、国内移動を余儀なくされています。
このような状況は、既存の社会制度や資源に対して巨大なプレッシャーをかけ、さらに貧困と不平等を助長しているのです。
【環境移民に関する課題と緊急性のポイント】
■数の増加:国連などの国際機関による報告によれば、2050年までに約2億1,600万人が環境の変化によって移住する可能性が高いとされています。特にアフリカ、アジア、中南米ではその影響が大きいとされています。
■気候変動の影響:海面上昇、洪水、熱波、干ばつなど、気候変動がもたらす自然災害が環境移民を増加させています。例えば、バングラデシュ、インドネシア、フィジーなどはすでに深刻な影響を受けています。
■国内移動:国境を越えるだけでなく、国内での移動も多く発生しています。原因となる災害例としては、アメリカのハリケーン・カトリーナやオーストラリアの森林火災などがあります。
■社会経済への影響:環境移民が多く発生すると、移住先での資源の競合、住宅問題、失業などさまざまな社会経済問題を引き起こします。
■人権問題:環境移民が適切な支援や保護を受けられない場合、人権が侵害される可能性が高まります。特に女性や子供、高齢者はその影響を大きく受けます。
■法的・政策的課題:現在、多くの国や国際機関では環境移民を法的にどのように取り扱うかについての明確なガイドラインがなく、これが問題となっています。
■環境破壊の連鎖:人々が新しい場所に移住すると、その地域の環境にも影響を与える可能性があり、サステナビリティの観点からも問題です。
環境移民の問題は多面的であり、気候変動、社会経済、人権、政治など多くの側面に影響を与えています。このような複雑な課題に対処するためには、国際社会が一体となって対策を講じる必要があるのです。
エシカルな視点による環境移民問題
エシカルな視点から環境移民問題に取り組む際には、人権と平等性を中心に考える必要があります。
多くの環境移民は、自らの意志で移住するわけではなく、気候変動や自然災害など、避けられない環境的要因によってその選択を強いられています。このような状況下で、環境移民に対する支援や保護が不十分であれば、彼らの基本的な人権が侵害される可能性が非常に高くなるのです。
※イメージ:2022年6月22日バングラデシュの洪水時
特に弱い立場になりやすい人々(社会的弱者)――例えば女性、子供、高齢者――は、移住先での差別や暴力により人権侵害を受けやすいです。それゆえ、人権を守り、全ての人々に平等な機会を提供するための政策や支援が急募されています。
このエシカルな課題は、地域のコミュニティ作りやサステナビリティの推進とも密接に関わっており、全体として社会に対する長期的な影響を持つでしょう。
【環境移民に関するエシカルな課題】
■人権の尊重:環境移民は往々にして自らの意志で移動するわけではなく、強制されるケースが多いです。この点において、国際的な人権機関やNGOが彼らの基本権を保障する活動が必要です。
■公平なリソースの配分:移住先での資源は、新たに来た移民だけでなく、現地の住民にも公平に配分されるべきです。
■文化的繋がりの尊重:環境移民によってもたらされる文化的な影響も無視できません。例えば、彼らの持つ独自の文化や習慣がどのようにコミュニティに影響を与えるかについても考える必要があります。
■地域とグローバルのバランス:環境移民問題は地域問題であると同時に、グローバルな対策が求められます。
【地域の側面】
1.地域社会へのインパクト:環境移民が集中する地域は、劇的に人口が増加し、地域資源に対する需要も高まります。これは、地域レベルでの短期および長期的な計画と対策が必要であることを示しています。
2.地域文化との融合:環境移民が持ち込む異文化が地域社会にどのように適合するか、または適合しないかも重要です。地域文化の維持と新しい文化の受容とのバランスが求められます。
3.地域政策:地方自治体が果たす役割も無視できません。移民の受け入れに関する政策や法的な枠組み、支援サービスなどは地域によって異なります。
【グローバルの側面】
1.国際的な協力:環境移民はしばしば国際的な課題となるため、各国や国際機関が協力して対策を講じる必要があります。これには、資源の共有、法的支援、緊急援助などが含まれます。
2.国際法と条約:現状、環境移民に関する明確な国際法が存在しない(※)ため、新たな枠組みの必要性が高まっています。
【※環境移民に関する国際法について】
難民問題に対する国際的な対応を強化するための文書「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees)は存在します。ですが、これは主に戦争や迫害によって発生する「難民」に焦点を当てています。一方で「環境移民」は、気候変動、環境劣化、自然災害などによって発生します。
※イメージ:2017年4月1日バングラデシュの難民キャンプで食糧支援を待つミャンマーからの難民画像
このような環境的要因による移動は、一般に「難民」とは異なる法的な扱いを受けるため、環境移民に関する明確な国際法はまだ確立されていません。
「難民に関するグローバル・コンパクト」や難民条約(「難民の地位に関する1951年の条約」「難民の地位に関する1967年の議定書」)は、主に迫害や戦争から逃れる人々を保護する枠組みを提供します。これらの国際的な取り決めは、環境移民には直接適用されないケースが多いです。
したがって、「環境移民」に特化した国際的な枠組みや条約が必要とされています。環境移民に対する対応には独自の課題があり、それに対処するための法的および国際的な指針が求められています。
グローバルな気候変動対策: 環境移民を減らすための最も根本的な対策は、気候変動自体を抑制することです。これは全世界の共同課題となります。
■「難民に関するグローバル・コンパクト(Global Compact on Refugees)」については、以下のUNHCR公式サイトをご参照ください。
https://www.unhcr.org/jp/global-compact-on-refugees
持続可能なリソースを活用したナチュラル・オーガニックな対応策
地球環境の変化によって引き起こされる環境移民問題は、多角的なアプローチで解決を目指す必要があります。
特に、再利用可能なリソースを用いて地元コミュニティをサポートする「ナチュラル・オーガニックな方法」が注目を集めています。例えば、自然災害による影響を最小限に抑えるため、バンブーや麻などの再生可能な資源で造られた住居や公共施設が一例です。
これらの素材は、地球に優しいだけでなく、地域の経済発展にも寄与する可能性があります。
さらに、持続可能な農業技術や再生可能エネルギーの導入も、環境移民問題に対する長期的な解決策として検討されています。ソーラーパネルや風力タービンを用いて、地域コミュニティが自給自足する仕組みを構築することも、移住の必要性を減らす一助となるでしょう。
このようなナチュラル・オーガニックな手法は、ただ単に「エコフレンドリー」であるという以上の意味を持ちます。それは、地球環境と人々が繊細なバランスで共存する未来を想像し、実現するための重要なステップなのです。
サステナビリティ(持続可能性)の三つの側面とその実践方法
環境移民問題に対処するための持続可能な解決策は、環境、経済、社会の3つの側面を総合的に考慮する必要があります。
まず、環境面では、環境移民の発生源となる自然災害や土地劣化を最小限に抑える方法が必要です。例えば、マングローブの植樹や海岸保全によって、気候変動の影響を緩和する取り組みが世界各地で行われています。
次に、経済面では、環境移民が新しい土地で安定した生計を築くことができるように、教育や職業訓練が不可欠です。特に女性や若者に対するスキルトレーニングが進められることで、持続可能な経済成長を実現し、移民の自立を促進できます。
社会面では、環境移民が受け入れられ、社会に順応するためには、公平な教育機会や健康サービス、住宅の提供が必要です。その上で、多文化共生を実現するための教育プログラムやコミュニティビルディング(※)も重要な要素となります。
※コミュニティビルディング:共通の目的や関心、価値観を持つ人々が集まり、そのコミュニティ内での関係を深め、協力し合い、持続可能な形で発展させるプロセスや活動のこと。
特に環境移民の文脈では、新しい地域社会への適応、既存の地域社会との調和、そしてその地域社会が持続可能な形で発展するために、コミュニティビルディングは非常に重要な要素となります。これは、移住者が新しい環境で心地よく生活するため、また、地域社会が新しいメンバーを受け入れる過程をスムーズにするために不可欠です。
このように、サステナビリティは「環境移民」問題に対しても多面的かつ具体的な解決策を提供する鍵となる概念です。各地域や国が持続可能な形でこれに取り組むことで、真の意味での解決が見えてくるのではないでしょうか。
環境、経済、社会の側面からの持続可能な取り組み
たとえばバングラデシュでは、環境、経済、社会の三つの側面からの持続可能な取り組みが進められています。というのも、バングラデシュでは、気候変動の影響で海面上昇と増加する自然災害によって、多くの人々が故郷を離れざるを得なくなっているためです。
環境面では、マングローブ植林、堤防の強化、そして河川管理の強化が図られ、経済面では、移住者に対する職業訓練や新しい雇用機会の創出が進んでいます。社会面では、地域コミュニティとの連携を深め、文化的な適応支援も行われています。
その成功要因としては、地方政府、NGO、国際組織との連携が挙げられます。
一方で、失敗点としては、長期的な資金調達が不足していること、そして既存の社会制度や文化に対する配慮が十分でない点が指摘されているのです。
※イメージ:2022月9月15日パキスタン洪水災害時のUNHCR人道支援画像
このようなバングラデシュでの具体的な取り組みを通して、環境移民問題に対する多角的なアプローチの重要性が明らかになっていると言えます。
環境移民は21世紀の重要な問題
環境移民は21世紀の切迫した問題であり、単なる環境問題にとどまらず、経済、社会、人権に至るまで多方面に影響を与えています。
バングラデシュの事例を通じて、環境、経済、社会の三つの側面からの持続可能な取り組みがいかに重要であるかは明白です。成功要因と失敗点、それぞれに学べることがあり、これからの対策に生かしていくことが重要になるでしょう。
エシカルな面に配慮しながら、ナチュラルな方法で地球環境に負担をかけない対策を取ること、そして地域社会や国際社会と連携してサステナビリティを追求すること――これらが環境移民問題を解決する鍵です。各国、NGO、企業、そして私たち一人ひとりがこの問題に積極的に取り組むことで、より良い未来を築いていけるのではないでしょうか。
【参考文献・サイト】
・UNHCR日本公式サイト内「気候変動と強制移動」
・UNHCR日本公式サイト内「気候変動の最前線から」
・HATCHサイト内記事「「環境移民」はこのままでは30年後2億人に! 気候変動に責任を負うべき世界の先進国と日本が連携して取り組むべき対策とは?」
・WORLD ECONOMIC FORUMサイト内記事「気候難民 忘れられた犠牲者」
・国際環境NGO FoE Japan「気候変動と移民とのつながり:国際法の視点」
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