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ミツバチ大量死とネオニコチノイド系農薬の関係|世界で規制される農薬問題と日本の現状

【ネオニコチノイド系農薬とはなに?ミツバチが大量に消えている?「蜜蜂崩壊症候群(CCD)」って?】2018年にフランスで全面禁止となったネオニコチノイド系農薬。EU、アメリカなど世界中で規制の動きがでている農薬問題とは?日本の農薬残留基準値は緩すぎる?お茶から検出?など、地球規模で問題となっているネオニコチノイド系農薬について分かりやすく簡単にまとめました。

【毎年5月20日は「世界ミツバチの日 “World Bee Day”」】

ネオニコチノイド系農薬――この名称を聞いて「〇〇という問題に関わっている農薬のこと」と説明できる方は、日本ではあまり多くないかもしれません。

ですがこのネオニコチノイド系農薬(略して「ネオニコ農薬」)は、日本に住む私たちにとっても無視できない、世界レベルでの大問題を引き起こしている重要な物質です。

農薬散布

2018年9月1日より、フランスではこのネオニコチノイド系農薬5種の農地使用(屋外、温室)が全面禁止になった事実が、事の重大さを端的に物語っています。

そこでここでは、「ネオニコチノイド系農薬」に注目し、この農薬のどのような点が世界的な問題を引き起こしているのか、簡単にご説明します。

ハナバチの役割と世界的な減少

ネオニコチノイド系農薬について語るのに、切っても切れないワードに「ミツバチ」もしくは「ハナバチ」が挙げられます。

ハナバチとは、ハチ目ミツバチ上科のなかで、花粉や蜜を蓄える種類のハチの総称です。そのためミツバチやクマバチ、マルハナバチなどは、すべて「ハナバチ」に含まれます。

ミツバチ

ハナバチの体は細かな毛で覆われており、花粉がつきやすくなっています。そのため花粉をおしべからめしべへと運ぶ、花粉媒介をする役割があります。このように花粉を運ぶ生物を「送粉者」(英語で「ポリネーター(pollinator)」)と呼びます。

ですがこのように花粉を運ぶ働きをする野生のハナバチたち、また人間によって「飼養(養蜂)」されているセイヨウミツバチの数が世界的に減少しているのです。

この減少傾向は1990年代からヨーロッパを中心に確認されており、その後ヨーロッパのみならず、北米(2006年~)カナダ、ブラジルなどの中南米、インド、台湾、中国、日本などアジア諸国にまで広がっています。

人類の未来とミツバチの関係

ミツバチを含むハナバチの数が減少すると、なぜそれほど問題になるのか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんね。

そこで注目したいのが、ハナバチが担っている役割です。

先述したようにハナバチは送粉者として、植物の受粉を助けています。そのためハナバチがいなくなってしまうと、食料となる農作物(対象は約100種類にも及びます)の交配がうまく出来なくなってしまうのです!

2011年3月、国連環境計画(UNEP)のアヒム・シュタイナー(Achim Steiner)事務局長が世界的なハナバチの大量消滅についての報告書にて

送粉者(=ハナバチ)を含む自然の財産への人類の扱い方次第で、21世紀における我々共同体の未来はある程度決定される。事実、世界の食料の90%を占める100種類の作物種のうち、70%以上はハチが受粉媒介しているのだ。

(原文)
The way humanity manages or mismanages its nature-based assets, including pollinators, will in part define our collective future in the 21st century. The fact is that of the 100 crop species that provide 90 per cent of the world’s food, over 70 are pollinated by bees.

UN NEWSより原文抜粋)

と述べているように、ハナバチたちの存在は人間を含む生態系の存続を左右するほど、重要なキーなのです。

「蜜蜂崩壊症候群」(CCD)とは

ではなぜハナバチ(ミツバチ)の数がこのように急激に減少するようになったのでしょうか。

大量のミツバチが消える現象として、「蜜蜂崩壊症候群」(Colony Collapse Disorder, 略して“CCD”)があります。

CCDとは、たとえば突然巣箱にいた大半のハチの群れが消滅したり、女王蜂や幼虫のみは巣箱に残っているが、エサを運ぶ働きバチが戻ってこないために、最終的に群れ全体が死んでしまったり、女王バチの発生数が減少して新しい群れが作れなくなったりする現象を指します。

巣に戻るミツバチ

そしてCCDの原因はひとつに特定できないものの、そのひとつとして「ネオニコチノイド系農薬」が大きく影響していると指摘されているのです。

なぜならネオニコチノイド系農薬は「神経毒性」を持っており、ミツバチをはじめとした昆虫の神経をかく乱させてしまう作用があるため。たとえば神経を乱された働きバチは、巣に帰ることができなくなってしまったり、死んでしまったり、生殖能力に異常をきたしたりします。

害虫を駆除するために散布されるネオニコチノイド系農薬が、(人間にとっての)害虫以外の昆虫にまで作用するのは、当然と言えば当然の結果なのです。

また、昆虫は鳥の食料ともなることから、鳥類の減少に対するネオニコチノイド系農薬との因果関係も指摘されています。昆虫の死滅は生態系全体の問題でもあるのです。

ネオニコチノイド系農薬とは

ネオニコチノイド系農薬(8種類あり)とは、タバコに含まれる有害物質ニコチンに似た作用を持つ、1990年代に開発された農薬です。

神経毒性のほか、残効性(長く効果が残る、残留濃度が高い性質)、水溶性による浸透移行性(葉・根などから薬の成分が吸収され、植物全体を移行することで葉や花自体が殺虫効果を持つようになる性質)などの強力な殺虫作用があります。

草としずく

その強力な殺虫力により、他の弱い農薬と比べて1回の使用量が少なく、長く残留するために散布の回数も少ないメリットによって、水稲や野菜などの農作用以外にも、家庭用殺虫剤やガーデニング用、ペットのノミ取り剤など、幅広く使用されています。

なお、ネオニコチノイド系農薬が持つ、(ニコチンのように)中枢神経の伝達物質の働きを阻止し、神経を乱す性質は、昆虫のみならず、動物においても作用することは十分に考えられ、残留濃度の高さから(賛否はあるものの)人間の子どもの脳の発達への影響も懸念されています。

「ハナバチたちの大量消滅とネオニコチノイド系農薬には、直接的な因果関係は明白には認められていない」「検証実験には正確性がない」などという反対意見も見られますが、その強い毒性が世界規模での生物多様性存続に対する危機感を高めている事実は否めない状況なのです。

世界的な使用禁止の流れ

冒頭でも触れたように、2018年9月1日より、フランスではネオニコチノイド系農薬の主要5種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム、チアクロプリド、アセタミプリド)の農地使用(屋外、温室)が全面禁止になりました。

実は3種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)は、2013年にすでにEU(欧州連合)が農地使用を制限しており、さらに2018年には「(農地使用での)屋外全面使用禁止」を決定し、2019年12月より施行します。

ちなみに韓国は2014年3月にEUに準拠して3種を使用禁止。アメリカでは、2015年に4種(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム、ジノテフラン)に使用制限がかけられ、トルコでは2018年12月に3種を使用禁止としています。

※EUの「農地使用における屋外全面使用禁止」に関しては不十分という指摘もあり、今後も世界的に規制内容が見直されることは必至です。

日本でのネオニコチノイド系農薬の規制状況

では日本におけるネオニコチノイド系農薬の規制状況はどうでしょうか。

驚くべきことに日本では、ネオニコチノイド系農薬を1種でも「使用規制・禁止」するどころか、「食品残留基準値緩和」(食品にネオニコチノイド系農薬の含まれていてもOKとみなす値を引き上げること)を行っているのです。

たとえば2015年5月における食品残留基準値緩和処置では、ホウレンソウは「それまでの基準値の13倍」に引き上げられました。

新鮮な野菜

※日本の農作物が、EUなどから(ネオニコチノイド系農薬以外の農薬も含めて)「残留基準値」の大きな差異によって輸入拒否されることは珍しくありません。

また2018年に行われた、日本産緑茶茶葉とスリランカ産紅茶茶葉におけるネオニコチノイド系農薬の残留状況の調査では、「日本産緑茶茶葉とペットボトルの緑茶飲料」のみにおいて、複数種類の検出があったとのこと。

※調査された茶葉の名称などは不明のため、市販されている全ての製品に当てはまる訳ではありません。

検出値は「日本での基準値」は下回るものの、長期摂取によって体内に蓄積される懸念や、子供や胎児への影響を考えると、そもそも基準値自体が緩和されていることに強い疑問を感じてしまいます。

【調査についての参照文献】
Yoshinori Ikenaka, et al. “Contamination by neonicotinoid insecticides and their metabolites in Sri Lankan black tea leaves and Japanese green tea leaves”

【農林水産省「諸外国における残留農薬基準値に関する情報」】
http://www.maff.go.jp/j/export/e_shoumei/attach/pdf/zannou_kisei-105.pdf

ネオニコチノイド系農薬は生物全体の問題

ネオニコチノイド系農薬がこれほどまでに使用されるのは、害虫駆除能力の高さや効果の持続性の高さなど、生産性が高くコストを抑えられる点など、農作物を育てる上でのメリットが挙げられるためです。

そのため農業従事者の中には、ネオニコチノイド系農薬の規制を良く思わない方々もいらっしゃるかもしれません。また代替案がなくては、害虫によって農作物が育たなくなる、という事も考えられるでしょう。

世界の子供たち

さらにはネオニコチノイド系農薬とは異なる農薬が、別の事態を生み出すかもしれません。

しかし未知なる生態系への影響が今後どのような地球規模での惨事を引き起こすのか、可能性を予測し、阻止するために今動くことは、数年後、数十年後、数百年後の未来への布石となるのです。

「地球に住む共同体」として我々人類が協力し合うことを「ムダ」だと一笑に付すのは簡単です。また一般消費者がネオニコチノイド系農薬についてなんらかの行動を起こすのは、非常に難しいかと思います。

ミツバチと花

ですが「このような問題が世界規模で起こっている」「日本には農薬に関して規制がない、もしくは他国と比べて大幅に緩い」という事実を知っているかどうかだけでも、その後の選択に違いが出てくるのではないでしょうか。

この記事を書いた人

ライター:奥田真由子

アロマテラピー検定1級、AEAJ認定環境カオリスタ、AEAJ認定ナチュラルビューティスタイリスト。京都府立大学大学院英語英米文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。文学研究を通して社会と人のあり方を考えていた経験から、国内外エシカル関連の情報を「肩ひじ張らずに」探求したく日々勉強中。