「健康を理由に、人生の選択肢を諦める人をなくしたい」。病院の外へ看護を広げる、nurse one 代表の渡邊江梨香さんにインタビューしました。

本ページはプロモーションが含まれていることがあります

Ethical Leaf編集部

約13年間、病院看護師として患者や家族と向き合ってきたnurse one代表の渡邊江梨香さん。現在は、企業で働く人の健康支援を中心に、健康経営支援、研修、地域での健康づくりなど、看護師としての経験を病院の外へ広げています。

神戸・三宮では、一人一鍋で豚しゃぶを楽しめる「しゃぶバルKobe」も運営。

活動の根底にあるのは、「健康を理由に、人生の選択肢を諦める人をなくす」という思いです。病気になってから支えるだけでなく、健康なうちから人の暮らしや働き方に関わる。その背景と現在の取り組みをお聞きしました。

病院の外で、働く人の健康を支える


――渡邊さんは「健康で長く働ける人」を増やすという意味で、看護師として持続可能な事業を展開されていますね。現在、nurse oneではどのような事業に力を入れていますか。

渡邊さん:現在の事業の中核は、企業で働く方と、企業側の人事・管理職を継続的に支える「企業の保健室」です。企業を訪問して従業員の方とお話ししたり、健康に関する相談を受けたり、アンケートなどから組織全体の健康課題を把握したりしています。

アンケートの結果は個人が特定できないかたちで、「こういう健康課題が起きているという傾向」もお伝えしています。

相談内容はメンタルヘルスだけではありません。例えば、女性特有の健康課題、介護と仕事の両立、健診後のフォローなど、働き続けるうえで生活と健康が交差する問題はたくさんあります。

一方で、人事や管理職の方も「健康に関してどこまで声をかけてよいのか」「どう答えればよいのか」と悩まれることがあります。従業員だけでなく、会社側にも相談先がある状態をつくることを大切にしています。

実際に、「今日渡邊さんが来てくれるとわかっていたので、頑張れました」「女性特有の悩みを男性の上司には話しにくいので、聞いてもらえるだけで安心しました」などと言ってもらったこともあり、働く方にとっての“安心感”を守っていきたいと思いました。

不調を抱えながら働くことで、仕事のパフォーマンスが低下してしまう「プレゼンティーズム」という状態がありまして、そういう方は増えています。悪くなってから病院に行くのではなく、まずそういった状態に陥らないようにしたいとの想いから予防に注力した「企業の保健室」を始めました。

Photo:渡邊様提供

――病院での看護とは、かなり違いますね。

渡邊さん:場所は違いますが、私の中では看護の延長線上です。病院では症状が悪化してから出会う方が多く、「もし、働く場や生活の中でもう少し早く関わることができていたら、変わっていたのかもしれない」と何度も思いました。

今は、病気になってからではなく、「ちょっとしんどい」「誰に相談したらいいかわからない」という段階から関われる仕組みを社会のインフラにしていきたいと思っています。

企業では健康経営の取り組みや、ストレスチェック、研修などの支援も行っています。ただ、制度を導入したり「健康経営優良法人」の認証を取得したりすること自体をゴールにはしていません。実際に働く人に届き、会社の課題改善につながるところまで伴走することを重視しています。

――まずは予防として関わることが大切ですね。働く人の心身の健康をいかに維持するかは、大きな社会問題にもなっているので、こうした取り組みが広がっていけばと思います。

原点は「もっと早く関われていたら」という思い


――現在の活動につながった原点を教えてください。

渡邊さん:病院で長く働く中で、病気が理由で「旅行に行きたいけれど行けない」「会いたい人に会えない」「やりたいことを諦める」という方をたくさん見てきて、保険の範囲内での看護に限界を感じたんです。

その経験から、病院の中だけでは支えきれないことがあると感じ、保険外の看護サービスに関わるようになりました。

保険外の看護サービスとしては余命1ヶ月ほどと言われた男性が、酸素ボンベや医療用麻薬を使って車いすでお嬢さんの結婚式に出席するのをサポートしたり、「最期は自宅で過ごしたい」という方に寄り添ったりと、たくさんの経験をしてきました。
Photo:渡邊様提供

このように旅行や外出、人生の最終段階の支援などにも携わり、事業責任者として全国約750名の看護師ネットワークを構築した経験もあります。

一方で、そこで強く感じるようになったのが、「もっと健康なうちから関われていたら、違う最期があったのではないか」ということでした。今のnurse oneのPurpose(存在意義)である「健康を理由に、人生の選択肢を諦める人をなくす」は、そこから生まれています。

――看護師の働き方についても、考えるきっかけになったのでしょうか。

渡邊さん:そうですね。看護師の力が必要なのは病院の中だけではありません。企業、地域、生活の場にも、健康について「誰に聞けばいいかわからない」という場面があります。看護師がそうした場所に関わることが当たり前になれば、病気になる前から支えられる人が増えます。

同時に、看護師自身の活躍の場も広がると思っています。

日本には、看護師免許を持ちながらライフイベントや介護など、何らかの理由でに現場を離れた、「潜在看護師」は約70万人います。そういった方々も含めて、看護師の新たな活躍の場が増えれば嬉しいです。

――渡邊さんは看護師として、そのとき必要とされることを考えて、事業としてどんどん“形”にされてきたことがわかりました。

渡邊さん:はい。また、「企業の保健室」と飲食店経営を軸としながら、来日される海外の医療・介護人材の方への日本語や接遇の講師をしたり、医療現場のIT化やDXのサポートをしたりもしています。

海外人材の方のミスマッチを無くすために、専門用語や方言なども教えています。また、来日後の健康管理をおこなうなど、継続的に関わることで「何かあっても相談できる窓口」でありたいと思っています。

私がこうしてさまざまな活動をしていると「渡邊さんが動くことで、他の看護師さんの活躍の場が増える」と言ってもらったことがあって、とても嬉しかったですね。

Photo:渡邊様提供

地域で健康に触れる場所としての「しゃぶバルKobe」


――企業支援と並行して、飲食店も運営されていますね。

渡邊:2025年に神戸・三宮で「しゃぶバルKobe」をオープンしました。カウンター9席で、一人一鍋で豚しゃぶを楽しんでいただける小さなお店です。

しゃぶしゃぶの定番であるポン酢やごまだれは使わずに、素材そのままの味を楽しめる「和風だし」と「豆乳だし」でご提供しています。豚肉や野菜などの素材も、実際に生産者さんや販売者さんとお会いしながら選んできました。

――何度か食事をさせていただきましたが、シンプルだからこそ豚肉や野菜の美味しさがわかるしゃぶしゃぶでした。落ち着いた雰囲気のカウンター形式で、一人でもぷらっと入れるのがいいですね。どんなきっかけで飲食店を始めたのでしょうか。

飲食店を始めた理由を「健康的な食事を提供するため」だけで説明すると、少し違います。もちろん食は健康に関係しますが、私が大切にしているのは「地域の中で人が自然に集まり、つながれる場所であること」です。

お客様どうしで会話が生まれたり、私に会いに来てくださる方がいたり、仕事のつながりが生まれたりすることもあります。健康について構えて相談する場所ではなくても、人と人がつながる場所があること自体に価値があると思っています。

海外のお客様にも日本のしゃぶしゃぶを楽しんでいただけるよう、多言語での案内も用意しています。

Photo:渡邊様提供

健康を、人生の選択肢を守るための基盤に


――最後に、今後、どのような社会をつくっていきたいかを教えてください。

渡邊:健康そのものを目的にしたいわけではありません。健康は、自分がやりたいことを選び続けるための土台だと思っています。

仕事を続けたい、家族と過ごしたい、旅行に行きたい、新しいことに挑戦したい。そうした選択肢を、健康上の理由だけで諦める人を少しでも減らしたいです。

そのために、企業では働く人を支え、地域では生活の中に健康との接点を増やす。そして、必要な場所で看護師が専門性を発揮できる仕組みもつくっていきたいと思っています。

病気になってから医療につながるだけではなく、元気なうちから相談できる人や場所が身近にある。それが特別ではない社会のインフラしていきたいです。

――日本では健康寿命と寿命の間に平均で8~12年の乖離があって、その期間は誰かのサポートを受けながら生活しているといいますよね。健康なうちにからだのことを相談し、長く働き、結果的に健康寿命も延びる。渡邊さんの活動を通して、そんな社会が広がっていくことを楽しみにしています。


話し手

渡邊江梨香(わたなべ・えりか)

nurse one代表/看護師/健康経営アドバイザー。病院看護師として約13年間、外科病棟、精神科救急病棟などで勤務。その後、保険外看護事業の事業責任者として全国約750名の看護師ネットワーク構築に携わる。現在は企業向け健康支援「企業の保健室」、健康経営支援、研修等を展開。神戸・三宮で「しゃぶバルKobe」も運営する。

関連キーワード

登録されたキーワードはありません

この記事を書いた人

Ethical Leaf編集部

エシカルな生活を楽しむライフスタイル・マガジン『Ethical Leaf』(エシカルリーフ)編集部。 「日常のなかでふと気づく誰かのこと、環境のこと、世界のこと、地球のこと」をベースに、生活のなかに取り入れやすい(&心に留めておいてほしい)エシカル(倫理的な)情報を集めて発信中!

関連記事


    エシカルな暮らしのヒントを
    LINEでお届け。

    LINE 友だち追加